民家の魅力 - 住まい手の声 -

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2009年7月17日 (金)

蔵は劇場、部屋はステージ―自分らしさの演出

Yumegaikan

私の蔵の一つの魅力は、陰影のほんの僅かな濃淡の差が奏でる美しさである。あるとき、私は谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」で陰影の中の美を知り、大きな窓をつけることをためらった。一階は、すりガラスの小さい窓からほのかに差し込む陽とそれを補う柔らかい灯りのデンマーク製の照明。しんみりと落ち着いた光が濃茶に塗られた四面の壁にしみ込んでいく様子がとても美しい。私は、この静けさの下でソファに座り、薪ストーブの炎に暖められながら好きな本を読み、至高の時間を過ごす。

私が蔵でいつも楽しみにしていることがある。「来客」である。私は○○パーティーなどと勝手なお題を作り、友人知人を強引に呼び込んで楽しむまったく迷惑な人間だが、一人住まいの人間にとって来客は天国のようなイベントである。
今日は、五人の職場の同僚が大きな袋を抱え、わいわい私の蔵にやってきた。本日のお題は「手作りピザパーティー」である。仲間はチーズや野莱、ソーセージを切っては手渡しし、ダイニングテーブルに置かれた丸いピザ生地にタップリ乗せている。私は、薪ストーブの火加減を見ながら早くピザ生地をくれとちらちらと目配りしている。それを察したのは、私が前から気になっていた女性である。彼女はピザ生地を何枚も運んできた。そのとき彼女が「私もここに住んでみたい」と小さな声を漏らしたので、私はストーブの扉を閉め損ねて皿を落としてしまった。フフッと含み笑い見せた彼女だが、それがどんな意味だったのか……。こんな心踊らされる来客もまた嬉しい。

光の流れが止まる夜は、スタンドの僅かな灯りが壁の淡い反射を使い真綿のような柔らかい空気を作るので、私はスローテンポのジャズに浸る。蔵に行き渡るピアノやサックスの音色が私の心を解かし始めると、自分が別人のように感じられる。
「私の蔵は暮らしを彩る劇場で、部屋は劇場ステージ」である。私はステージに立ち、自由で誰とも比較されない、あるがままの自分らしさを演出したかった。

新村佳幸さん(長野県・友の会会員・『民家』66号「夢をかなえて」より)

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