73号(2010年7月発行)
巻頭インタビュー
里山と民家体験が子どもたちの感性を育む
木更津社会館保育園園長/宮崎栄樹さん
「子どもたちに木更津の森を体験させたい」
私が園長を務めている木更津社会館保育園は、一九三八年(昭和一三年)に設立された長い歴史のある私立の保育園です。今は140名の子どもたちを受け入れています。
私は1978年に園長になったのですが、就任してから20年の間に、自分が目指した保育園ができあがった、目標が達成されてしまったと感じていました。
新しい何かを探して外に目を向けたときに、「そうだ、自分が育った木更津の森へ入っていこう」と思ったのです。そして
、1999年から里山保育を始めました。今年で11年になります。
本園は千葉県木更津市内の港の近くにありますが、里山保育をする分園は、そこから3キロほど山側に入った里山にあって、4、5歳児を年間70日ほど連れて行っています。子どもたちは三キロの道を歩いて往復するのです。最初は、ただもっぱら子どもたちと森の中で過ごすことが目的でした。泥んこになっても、多少、傷を作っても大人はほとんど手を出さずに見守るだけです。
ところが、里山保育を始めたら、自然と触れ合うことが少なかった子どもたちが、あらゆることをどんどん吸収していくのです。教えていないのに、オタマジャクシがどこにいるかわかる、虫のことも知っている、どの植物の実が食べられるかわかる、自分たちで遊びを発見する、子どもたちにとっては、山中が遊び場であり、学ぶ場になったのです。
そのことで私は、健康な体と豊かな感性を育てるには、森での保育が大切だと確信しましたね。
「民家でアニミズムの感覚を育てる試み」
分園の里山は広さが1万坪ほどで、そこに築100年以上の古い民家を改修した「佐平館」という建物があります。そこで子どもたちは、里山を駆け回り、民家の中では日常は体験できない異体験をさせられます。
子どもたちは3歳になると、佐平館へ行きます。絵本の世界のような、何だか怖ーい感じを体験させるのです。
1、2歳児は葉っぱのお面でも怖くてパニックになってしまう。いっぽう、5歳児になると私が顔に付けたカッパのお面を見ても怖くなくて、「このカッパは頭が禿げてる、声が園長だ」と言って見破ってしまいます。それが3、4歳児ですと、「保育園にはカッパがいるらしい、つかまえようか」と全身全霊で考えるのですね。
そんな三歳児にカッパどころか、鬼やお化けが出てきそうな佐平館での体験をさせるのです。一年間それをやっておいて、四歳になったら今度はそれを忘れさせます。そのために、四歳児は佐平館へ入れません。そういう過程を経て五歳になったら
、佐平館に再登場させます。そうすると、子どもたちは「あれ、ここ来たことあるなあ」とあらためて佐平館を見直します。忘却期間を置いて、もう一度体験させることでしっかりと記憶が強化されるのです。印象を強めるためにあえて一旦映像を切ってしまう。そうすると再会したときに「知っているのに知らない、初めて会ったのに懐かしい」というとても素敵な感覚が生まれます。
この体験を通してこそ、屋根裏でポトンと音がしたら怪物がいるのではないかしらとか、闇夜を見てお化けがいるかもしれないと思い姿まで見えるようになるのです。
今は、闇夜を見て何も見えない子どもが多いですね。真っ暗な闇夜を体験していないから、わからない。だからお化けも想像できません。
ファンタジーの世界に遊ぶことができる三、四歳児、うそを見破ることができるようになる五歳児。私は佐平館で、アニミズムの根本になる体験を子どもたちにさせてやりたいと思っています。(後略)
宮崎栄樹(みやざき・えいじゅ)
1948年千葉県生まれ。1978年より木更津社会館保育園園長を務める。 1999年より保育園分園の自然の中で「里山保育」を始める。約 1万坪の敷地内に里山保育の拠点である「森の家」と築 100年余の民家「佐平館」がある。里山で五感を育てるその取り組みは NHKの特集番組や記録映画の上映などで注目されている。活動は斉藤道子著『里山っこが行く—木更津社会館保育園の挑戦』(農文協)に詳しい。
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